金沢一箱古本市

 毎月最終日曜日の午前9時を過ぎた頃、浅野川大橋の橋詰になにやら大きな荷物を抱えた人たちが、車で、自転車で、歩いて、やって来る。向かうのはその先の細い路地を入ったところにある、「一箱古本市」と書かれたのぼりが立つ小さなお寺だ。本堂の前の階段に腰かけているスタッフから「出店場所はクジ引きですよ」と声をかけられた両手に紙袋姿の若い女性が、あっ今日は境内だ、と声を上げその場所に座る。目の前には昔<駅弁>を売る時に使われたのと同じ大きさの箱が置かれ、その中に紙袋から取り出した文庫本や雑誌を並べていく。最後に彼女の店の屋号らしき看板を箱の前に貼り出す頃には、境内や門前の路地に本日の出店者たちの古本が詰まった箱が並び終え、お客さんがやって来るのを待っている。
 金沢の茶屋街の一つである主計町の裏通りにあるここ源法院で古本市ができないだろうか、と相談に伺ったのは3年前だった。「(お寺は)いろんな人がいつでもお参りに来て、お寺の中で仏さんのお顔を拝んで、みんなで好きなことをしゃべってもらうようにと、(本堂の)戸は開けてあります」と話してくれたTさんは、ここで加賀友禅の工房を構えている。「お参りにみえるのはお盆とか除けば、ふだんは檀家さんやご近所に暮らす人、ときおり物珍しげに覗きこむ観光のみなさんばかりです。たくさん人が来てくれたら仏さんも喜んでくれますよ」と快く快諾してくださった。
 こうして昨年の夏から始まった「一箱古本市」は、焼きたてのパンや珈琲、おはぎ、野菜が混じった一箱もあったりして、今では本好きのお客さんから近所の人まで気軽に足を運んでくださる。
 今、金沢の街中から昔のような賑わいがなくなって久しい。お仕着せのイベントよりも、一箱の古本を中心に、人と人の、人と街との新しい出会いがここ源法院から生まれるよう、ささやかだけどワクワクするこの「市」を続けよう。

【一箱古本市】
 2005年、東京は谷中・根津・千駄木(通称:谷根千)で始まった、自分の好きな古本を一箱持ち寄り一日店長として楽しむ市のこと。
 金沢では源法院(主計町1-6)参道にて、冬期を除き月1回開催しており、2011年は9月25日、10月30日の2回開催されます。

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