本立て

 十代の終わり頃、当時大好きだったサイモン&ガーファンクルの曲が使われていた映画『卒業』を見た後、レコード店で彼らの出たばかりのアルバム『ブックエンド』を買って帰った。“ブックエンド”という詞が出てくるのは、公園のベンチに座りもの思いに沈む老人を、ブックエンドにたとえて歌う「OLD FRIENDS」1曲だけであったが、若かった私は、この歌に込められた“老い”というメッセージに、全く興味を覚えなかった。

 五十代に入り、古本屋を始めたその一年目の冬休みのこと。夜の長い北欧の街を旅していた私が、コペンハーゲンの雑貨屋で見つけたのは、両手を高々と上げた人のシルエットをした“本立て”であった。それは、金沢から遠く離れた所までやってくることが出来てよかった、と元気よく両手を振っている姿であり、また三十年余りもよく働いてきたもんだ、と腰を伸ばしているようでもあり、やれやれこれからの人生はのんびりいかなくちゃ、と深呼吸しているようにも見え、嬉しくなった。そんな私の気持ちを表している“本立て”が、今私の机の上でしっかり本を支えてくれている。

本立て ところでこの“本立て”なるもの、机だろうが床の上だろうが、どこでも簡単に本をしっかり立たせてくれるので、本好きの私はとても重宝している。今年の冬休みには大きな本箱を片付けて、代わりにベッドサイドに小さな本棚を設けたので、そこに例の“本立て”を1個置くことにした。配偶者の本棚にも余った1個を置いたところ、「本立てなんて要らないわ」とあっさり断られてしまった。

 「だって横になって読むのだから、本も横にして積んどけば背文字も見やすいでしょ!」

 本棚の隅に追いやられた“本立て”は、支えるべき本もなく、あきらめ顔でバンザイしている。

ほんたて【本立(て)】

本を立て並べ、倒れないように両側から支える道具。

ブックエンド。ほんだて。

<新明解国語辞典>

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