領収書の話 (3)

とうとう、「古本屋」という語で検索してここにたどり着く人より「領収書」で検索してくる人の方が多くなってしまった。

さて前回は、「代金引換」の際の領収書について書いた。領収書の話の最終回はもうひとつの決済方法、クレジットカード払いの際について書いてみる。

クレジットカード払いの場合

購入者はカード会社に支払い、販売者はカード会社から受け取るので、直接の金銭授受はない。したがって購入者は、販売者に対して領収証発行の請求権を持たない。裏返すと、販売者は法的な意味での領収書(受取証書)を発行することは不可能である。

ただ、以前に書いたような立替え払いで、販売者の領収書を求められることがある。そこで様式・表題を領収書として但書きに「クレジットカード決済」と書いたものを発行するところもある。なお、法的には領収書ではないので印紙を貼ることもない。この印紙税の説明にあるように、

クレジット販売の場合には、金銭又は有価証券の受領事実がありませんから、表題が「領収書」となっていても、第17号の1文書には該当しません。

ややこしいのだが、「領収書」という表題の、法的には領収書(受取証書)でないもの、ということになる。たぶんどこかの会社では内規でクレジットカードで購入した際にはこの紛らわしい文書を必要ということにしているのだろう。経理を担当している方よ、このような意味の混乱した文書を求めるのをやめていただきたい。これでは「納品書」で十分ではないか(1)。なんならそれに「クレジットカード決済」と但書をつけてもよい。発行する側としては、領収書ではない文書を領収書という表題で発行する気持ち悪さに比べれば何の抵抗もない。

記載内容

話は変わって、領収書の中身についていろいろ注文があることがある。たいてい公費払いのためのものであり、領収書だけではなく、納品書や請求書にも共通の事柄なのであるが。

「日付を抜いて」と言われることがしばしばある。厳密には要件を欠くからそのような求めには応じなくてもよいのかもしれないが、こちらへの便宜ということもあるのだろうか。たとえば「納品の翌々月末払」のような決まりを持つところで、こちらの代金受取りがかなり遅くなってしまうような場合、実際より早く納品されたことにして支払いを早めてくれることもある(めったにないけど)。むしろよくあるのは「品と一緒に、日付を抜いた見積書・納品書・請求書・領収書を同封して」というケースだ。確かにそれらが同じ日付ではまずかろう。そこまで形骸化しているのだったら文書そのものも要らないでしょと思うのだが、そうはいかないらしい。

送料の扱い

ネット販売ではほとんどの場合、送料が発生する。普通は

  (商品名)       1,000円
  送料             500円
  計             1,500円

という明細の領収書を発行する。

ところが購入者(それはたいてい大学なのだが)から「経理上“送料”という科目がないので、本体に含めた形にしてほしい」と要求されることがある。

そこで

  (商品名)       1,500円
  計             1,500円

という明細の領収書(あるいは公費後払いのため見積書や納品書・請求書)を発行することになる。

内々の決まりごとを余所に押しつけて傲慢な、とそのたびに思う。たとえば当店は次の通達の内容に従って、本体のみを「売上」とし、送料を「預り金」あるいは「立替金」とする仕訳を行っているとしよう。

(別途収受する配送料等)\\
10−1−16 事業者が、課税資産の譲渡等に係る相手先から、他の者に委託する配送等に係る料金を課税資産の譲渡の対価の額と明確に区分して収受し、当該料金を預り金又は仮受金等として処理している場合の、当該料金は、当該事業者における課税資産の譲渡等の対価の額に含めないものとして差し支えない。

消費税法基本通達

当方の「明確に区分して収受」したいという事情は考慮してもらえないのだろうか(2)

たとえば当店でも、ネットで見つけて余所の古本屋から本を買う(仕入れる)ことがある。仕入にかかる送料は「仕入高」に含めることになっている(3)から、たとえ発行される請求書・領収書などが「本体」「送料」と分けて書いてあっても(分けてないことはほぼ100%ない)、その合計額を「仕入高」に仕訳するだけである(4)(5)。なぜ大学はこれができないのだろう。ひとつの大学だけでなく、あちこちから同じことを言われるので何らか通達のようなものがあるのだろうか(6)

これまでの一連の「領収書の話」に何度も“商習慣”という言葉が出てきたが、ここに書いたことも法律の定めではなく、まさに“商習慣”に属することだ。大きな組織が弱小の商店に自分の都合を押しつけるのではなく、売り手と買い手が互いに対等に相手を尊重して譲り合っていくわけにはいかないのだろうか。

  1. 単に理解されていないことも多い。求めに対して「法的な領収書は発行できませんよ。納品書(とそちらでのクレジットカード利用明細)で処理できるのではないですか」と答えると「あ、そうなんですか」と言う経理担当者もいる。追って要求はないからそれで処理が済んでいるのだろう。
  2. 実を言うとこの話を書くために調べていてこの通達を見つけ、知ったばかりである。これを理由として相手に言ったことはまだない。
  3. 簿記の入門書にも書いてある。
  4. 「送料を合わせた額を本体価格とした証憑を相手に発行してもらいましょう」などと書かれた簿記の本はおそらくないであろう。見たことがない。
  5. 送料着払いで仕入れることもある。請求書あるいは領収書にはもちろん本体のみの記載しかなく、送料の領収書は配送業者が発行する。このような場合にさえ仕訳はそれらの合計を「仕入高」とするようにと簿記の本には書いてある。
  6. ところが「本体価格と送料は必ず分けて」と言ってくるところもあるから、よくわからない。