領収書の話

古本屋も商売であるから、商品を売って代金を受け取る。求められれば領収書を発行する。対面で現金を受取りそのお客さんの名前に宛てた領収書を出すのなら何も難しいことはない。しかしそうでない場面が古本屋には(別に古本屋でなくても)あるのだ。あとでよく考えると「?」ということがしばしばある。

そこでちょっと調べてみた。最近ではたくさん出版されている、SOHOや個人事業者向けの経理入門書などを見ても、インターネット上の情報を検索しても、領収書のもらい方、管理(「ちゃんと領収書を発行してもらいましょう。確定申告のときに大切ですよ」的情報)について述べているものは多いが、書き方、すなわち発行する側の立場から述べているものは少ない。せっかく調べたのでここに公開する。

私はもちろん専門家ではない。以下、調べたことと普段の経験から述べるものであることをお断りしておく。もし誤りがあったらお知らせください。

名称

「領収書」「領収証」などと呼ばれる。「レシート」も本来同じ意味だが日本語では「機械で打ち出されるアレ」を指すことが多い。法律では民法486条に「受取証書」として出てくるが「領収書」「領収証」という言葉はない。

この文章にはこれらがごちゃ混ぜで出てくるが気にしないでいただきたい。

根拠

民法

(受取証書の交付請求)
第486条 弁済をした者は、弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求することができる。

とある。これを発行者(「弁済を受領した者」)側から見ると、“求めがあった場合、受取証書(領収証)を発行しなければならない”と読めることになる。

しかし法的にはこれだけで、受取証書(領収証)はどのような要件を備えていなければならないかという定めはない(1)

法律には漠然とした記述しかないが、「商習慣」というものがある。むしろ商習慣が先にあって、法律はそれを明文化したものと言えるだろう。たとえば消費税法には

第30条9
第7項に規定する請求書等とは、次に掲げる書類をいう。
1.事業者に対し課税資産の譲渡等...を行う他の事業者...が、当該課税資産の譲渡等につき当該事業者に交付する**請求書、納品書その他これらに類する書類**で次に掲げる事項...が記載されているもの
イ 書類の作成者の氏名又は名称
ロ 課税資産の譲渡等を行つた年月日...
ハ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
ニ 課税資産の譲渡等の対価の額...
ホ 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称

とある(領収書は「その他これらに類する書類」)。消費税法ができる以前から、あるいは現在においてもたとえ消費税にまったく関係しない場合でも、領収書とはここでいうイ–ホ、それに受取証書であることを示すもの(「領収書」などの表題とか「受領しました」などの文言)を備えているものであるという共通認識があり、この法律はそれを追認したものと言える。

立替払いの場合

目の前で直接現金で支払われる場合は明白で、これが一番単純な場合である。

さて、購入者と違う宛名(例えば会社名)の領収書の発行を求められたら、どうか?

立替払いをした当該個人が会社の社員ないし従業員であれば、その人は会社の代理で立替払いをしたことになる。この場合、その人の行為は基本的に会社に帰属する。これ以降は、受取証書に関する通常の権利義務関係と同じ流れになる。

領収書を発行する側の立場から言わせていただけば、立替払い扱いについて、領収書受領側からの説明が足りないことが多い。もう一言説明をしてもらうと気持ちよく作業できることが多い。

銀行振込の控は領収証の代わりになるか?

古本屋は目録販売など昔から通信販売を行なってきた。最近ではインターネットでの販売も増え、これらの場合の決済のほとんどは郵便振替・銀行振込である。

購入者に領収書の発行を求められた場合、販売者には発行義務があるのだろうか。

経理(税務)上、振込の場合の振込証書は領収証と同等の証明書類となる。このことは裁判所の判例ないし証拠採用の実績および学説によって裏付けられる(2)

ただ厳密に言うとこの振込証書は「領収証そのもの」ではない。

銀行振込の場合、銀行は振込依頼者からお金を相手へ渡すことを依頼されているわけではない。そういう契約にはなっていない。銀行が任されているのは、いわばデータの移し変え作業であり、お金の受け渡しは振込元と振込先とが直接にやっている扱いとなる。つまり現金をじかに渡したのと同じことになる。そうすると銀行が発行する振込証書はあくまでもデータ移し変え作業依頼受託書でしかなく、領収証とは言えない。

つまり厳密には、銀行振込の場合には振込元のほうから領収証発行を求めることができる、というわけである。

通信販売の注意書に「振込の場合は領収証の発行はしません」と書いておくことが多い。これが売買の条件のひとつですよ、振込の場合は領収証の発行は求めないでくださいよ、というわけである。

いずれにしろ振込の場合は記録が残るので領収証がなくてもよいという実務上(税務上)の慣習があるので、発行を求められることはあまりない。ところが前節との合わせ技、すなわち個人名義の口座からの振込で会社名の領収証を求められる場合がある。この場合は前節のとおり領収証を発行することになるだろう(3)

長くなったので、この話の続きは後日

  1. 「3万円以上の領収書には収入印紙を貼る」というのは印紙税法の規定(印紙税法では「売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書」 (印紙税法別表第一第十七号) )であって、印紙がなければ領収書ではないということではない。営業に関しない受取書には印紙貼付の義務もない
  2. という記述を見つけたのだが、その具体的な判例・学説を見つけることはできなかった
  3. 支払者は銀行振込の記録で一度、領収証でもう一度、と不正に経費を計上するかもしれない。その不正に加担しないことを保障するためか「振込の場合の領収証発行は振込明細書と引換え」などの但書きをしている通信販売業者も見られる。しかしそこまでする義務は販売者側にはないのではなかろうか。下手をすると今度はいらぬ個人情報の収集と言われかねない。